季節とエモさ

 今日も暑いので、夏のことを書こうと思う。

 夏といえば海という人も多いだろう。僕にとって海の思い出は午前2時半の波打際だ。僕がまだ新卒で入った会社で必死に文字通り死にそうになりながら、働いていた時のことだ。週末に夕飯を食べにいこうと高校の時の先輩が誘ってくれた。高校を卒業して大学時代には何度かご飯には行っていたが、社会人になってからはめっきり会わなくなっていた。先輩は土日休みの職ではなかったが、そんなことを気にしていたら予定なんか合わんといって土曜の夜に会った。僕と先輩が食べるものは何も変わっていない。男二人だ。そこはラーメンしかない。ただ、移動手段が歩きか自転車だったのが、先輩が車を手に入れた。ここでラーメン屋のレパートリーがグッと広がったが、結局はとある国道のラーメン屋に入った。(京都系列でドロドロかサラサラのスープが選べる店でわかる人もいるだろう。)僕は恥ずかしながら、お腹が少し弱いので、ドロドロではなくサラサラを注文した。先輩は迷いなくドロドロを選び、餃子と焼き飯のセットAを頼んでいた。ネギ、ニラ、キムチそして杏仁豆腐が小さい小皿に取り放題だった。僕らは小皿から汁やらその具が溢れそうになるくらい小皿に盛り付けてラーメンを待った。ラーメンを待つ間、それとなく今何してるのか?とか今、誰々は何々をしているそうだと言ったありきたりな話をした。そして、ラーメンが来たら先ほど並々に盛ったトッピングをラーメンの上にかけて無心で食べた。食べている間、何も言葉はなかった。ただ、ひたすら啜っていた気がする。二人ともあっという間にラーメンを食べて先輩は鼻をかんで、一言言った。

 「海でも行くか。」

 僕も予定があった訳ではないし、会ったのが少し遅かったので、ラーメン屋を出た時には0時を過ぎていた。明日が来ていた。先輩は何時間後には仕事だったが、そんな事にはお構いもなしという感じだった。とりあえず、そこから一番近い海岸を目指した。そして、ラーメン屋でありきたりな話は底を尽き、車内は沈黙が多かった。そこで先輩は自分のカーステレオのチューニングを弄ってラジオを掛けた。たしか、CBCラジオが中継局となってかかっていたオールナイトニッポンが流れてきた。誰がMCでどんなハガキが読まれてどんな選曲がなされたかなんて事は今では一つも覚えていない。けど、たしかオールナイトニッポンだったはずだ。

 そんな事をしていて、すぐに海岸に着いた。僕たちは真っ暗な海岸を見つめた。暗すぎて波打ち際がぼんやりとしかわからなかった。先輩は海を頃く見て、ボソッと言った。「エモいな。」

 僕は聞こえないフリをしていた。時計は午前2時半だった。

 

 上の文章を書きながら、南沙織の「17才」という曲を思い浮かべたが、あれは恋人たちの歌だ。それにあのバンドからの影響を避けられない。なら、ハッピーエンドの「風をあつめて」は?スチャダラパーの「サマージャム’95」は?どれも名曲はあるけれど、あの時に僕の中でかかっていた曲はくるりの「魔法のじゅうたん」だったことも思い出しました。まさに泣かないで、ピーナッツ。